2024年03月08日 1812号

【読書室/食べものから学ぶ現代社会 私たちを動かす資本主義のカラクリ/平賀緑著 岩波ジュニア新書 940円(税込1034円)/グローバル資本による食支配】

 本書は、グローバル資本による食の支配のメカニズムを掘り下げたものだ。

 現代の金融は企業の資金調達の役割から離れ、投機でもうける「マネーゲーム」に大半の資金を投入している。そのため、商品の実態以上の値のつり上がりを繰り返している。

 農産物も例外でなく、その相場変動で莫大な利益を得るのが、アグリビジネスや大商社などグローバル資本である。一方、ウクライナ戦争での小麦価格高騰に見られるように、その被害はおしなべて各国の貧困層が被ることになる。

 いわゆる「自由貿易」にもカラクリがある。グローバル資本は、原産国の農産物を大量に安値で買いたたき、租税回避地(タックスヘイブン)を「経由」することで莫大な利益を計上しつつ、販売国では安値で販売する。生産国では本来、受け取れるはずの税収が失われ、消費国の側も安価な外国産品の流通で国内の諸産業が破壊される。この仕組みが貧困格差の拡大につながっている。

 農業の生産財である肥料や農薬、種子は4社のグローバル企業が大半を支配している。作りだされた商品作物は、やはり巨大企業のスーパー、コンビニ、外食産業を通じて私たちの口に入る。こうした少数の大企業に支配された供給システムだからこそ、コロナ禍や戦争で寸断されやすく、世界的な規模の食糧危機を発生させているのだ。

 著者は、食は共に所有し共に管理する「コモンズ」〈共〉と考え、地域で自然に負荷の少ない作物を生産し、地域の中で消費するゆるやかな食料ネットワークを育て、グローバル資本の食の支配に対抗していくことを主張している。(N)
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