2024年03月22日 1814号

【読書室/ALPS水・海洋排水の12のウソ/烏賀陽(うがや)弘道著 三和書籍 1500円(税込)1650円/政府・東電のだましを暴く】

 3月11日直前の同4日、放射能汚染水の海洋投棄差し止めを求める裁判の弁論が始まった。大きく取り上げるべきこの問題をマスコミはほとんど取り上げない。

 著者は、汚染水をALPS(公式には「多核種除去設備」)水と称する。汚染水vs処理水が敵味方を識別するラベリングとなっていることに与せず、あえて「中間的な言い方」を使う。だが、著者の指摘は鋭く、政府と東京電力が流すウソを徹底して暴いている。

 政府と東電は、汚染水タンクの置き場がなくなりつつあるので海洋排水すると言う。原発周辺には広大な中間貯蔵施設があり、この理由は成り立たない。海洋排水をするのは他に選択肢がないからとも言う。だが、経産省は地層注入・水蒸気放出・水素放出・地下埋設も検討していた。これらに比べ海洋排水が安くて早いから選んだにすぎない。

 「ALPS水に放射性物質はトリチウムしかない」→本当は「トリチウム以外も残留」、「原発からの海洋排水は世界中でやっている」→「直接燃料棒に触れた水を排出するのは世界で福島第一原発だけ」。事実に基づく指摘は明快だ。

 マスコミは海洋排水の際、「政府が約束を破った」と批判した。だが、政府は漁業者から「関係者の理解なしには…」なる「同意」を得たとするため、約束を破ったとの認識に立たない。著者は、マスコミが「理解」と「同意」の違い、政府の誤導と騙(だま)しのレトリックを解説すべきだと強調する。

 政府らの姿勢は「自分に都合のいいことなら嘘や誤導も言う。しかし都合の悪いことは隠す」だ。だからこそ徹底的に暴かれなければならない。本書はそのための一冊である。(T)
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