2024年04月19日 1818号

【原発裁判で連続不当決定/政権・電力会社と癒着する司法】

運転差し止め認めず

 3月15日、大阪高裁(長谷川浩二裁判長)は、福井県美浜原発3号機の運転差し止めを求めた仮処分事件の即時抗告審で住民らの申し立てを棄却。また3月29日には福井地裁(加藤靖裁判長)が、美浜原発3号機と高浜原発1〜4号機の運転差し止め仮処分を求めた住民の訴えを却下した。

 美浜3号機は運転開始から47年、高浜1号機は49年、同2号機は48年が経過した老朽原発だが、裁判所は、新規制基準が定める対策に不合理な点はなく、関西電力はそれに沿った対応をしているとした。また避難計画に不備があっても直ちに住民に放射線被害が及ぶ具体的危険があるとはいえず、避難計画の不備を検討するまでもないとした。

 これらの決定は元旦の能登半島地震で明らかになった事実に目をつぶるものだ。

能登地震の教訓を無視

 マグニチュード7・6を記録した能登半島地震の結果、半島北側の海岸は最大4bも隆起した。志賀原発は1・2号機とも運転停止中だったが、1号機の変圧器が油漏れを起こし、原発敷地には1bから3bの津波が複数回到達していた。半島北部地域に通じる道路は通行できなくなり、住民は避難できず救援物資も届かない事態となった。

 再稼働推進派の稲岡健太郎・志賀町長さえ「海にも空にも逃げられない。(避難計画を)抜本的に見直す必要がある」(2/4東京新聞)と言い出したが、当然だ。

 住民の反対運動で計画はとん挫したが、震源地の珠洲(すず)市に当初計画通り原発が建設されていたら、大惨事となっていた可能性がある。

 大阪高裁と福井地裁の決定に共通するのは、「万が一にも過酷事故が起こらないようにする」(1992年10月29日の伊方原発最高裁判決)という原発の安全規制の原則≠意図的に排除していることだ。

 2021年3月に水戸地裁が広域避難計画など防災体制の不備を理由に東海第二原発(茨城県東海村)の運転差し止めを命じたのは、その原則に沿った判断だった。そうした先例や能登半島地震という大災害の教訓を顧みない決定をした判事たちは司法の責任を放棄したと言うほかない。

政府の原発回帰を忖度

 こうした司法の動きは、原発事故避難者や被災者による原発賠償訴訟でも起きている。2021年9月までに出た4つの高裁判決(仙台1件、東京2件、高松1件)のうち3つは国の責任を認めていた。ところが2022年6月17日に最高裁第二小法廷(菅野博之裁判長)が出した「国に責任なし」の粗雑な判決(多数意見)以降、7つの高裁判決が出たがすべてが「国に責任なし」で、しかもそのほとんどが最高裁判決を丸写ししたものだった。

 岸田政権は今、原発再稼働の推進、老朽原発の延長運転、新型原子炉の開発など原発回帰路線を強引に推進している。政権の意向を受けて「結論ありき」の不当判決を書いたのが最高裁判事らだ。その正体を暴いたのが、ジャーナリスト後藤秀典さん(著書『東京電力の変節』)だった。

 いま日本には弁護士を数百人単位で抱える巨大法律事務所が5つある。それらに所属する弁護士が原発関連裁判で国や東電の代理人を務めるだけでなく、最高裁に判事を送り込み、また定年を迎えた判事の再就職先となっている。6・17判決を書いた菅野裁判長は直後の7月に定年退職し、8月に巨大法律事務所の1つの顧問に就いた。国・東電・巨大法律事務所の癒着が日本の司法を歪めている。まさに司法の危機だ。

6・17最高裁を包囲

 これから最高裁にあがる原発賠償訴訟を中心に、東電刑事裁判や子ども脱被ばく裁判、住宅追い出し裁判、そして避難者団体や研究者などが6・17判決を正す≠フ一点で実行委員会を結成した。6月17日に最高裁への要請行動、ヒューマンチェーンなどで司法の危機を世論に訴える。

 能登地震で反原発世論は再び強まりつつある。被害者救済と結んで、再稼働を阻止し全原発廃炉を迫ろう。

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