2024年04月19日 1818号

【未来への責任(396)/被告企業に直接訴えた元徴用工遺族】

 昨年12月、日本製鉄に強制動員された7名が会社を訴えた裁判で韓国大法院は会社に被害者への賠償を命じた。しかしこのとき原告は全員が亡くなっていた。今年1月には元徴用工被害者遺族が訴えた裁判についても判決が確定した。12月から1月にかけ、日本製鉄(2件)、三菱重工(2件)、日立造船(1件)、不二越(3件)、総数48名の被害者の訴えた裁判の判決が確定した。

 昨年3月、2018年の大法院判決にかかわる15名の被害者への賠償金を韓国の財団が肩代わり(第三者弁済)するという案を韓国政府が示し、いったん問題は政治決着が図られた。しかし、企業が謝罪も賠償もしない解決案に納得しない原告は、賠償金の受け取りを拒否し、企業の韓国資産の強制執行(現金化)の裁判を続けている。

 一方、財団に寄せられた韓国企業等からの寄付だけでは、資金不足で判決が確定した48名の被害者に賠償金を支給できない。日立造船の場合、韓国内資産の差押えを防ぐために6千万ウォンを韓国の裁判所に供託していたが、その供託金が今回賠償金に充てられた。

 林官房長官は「極めて遺憾」であるが「韓国政府が適切に対応するもの」というだけである。日本政府の解決済論、韓国政府の第三者弁済案はともに破綻している。

 3月25日、日本製鉄と三菱重工に強制動員された被害者の家族・遺族と支援団体ら総勢10名が朝から雨の降りしきる中、日本製鉄、三菱重工、不二越の各本社に謝罪と賠償を求める行動に取り組み、午後には議員会館内で開催された強制動員問題解決を訴える集会で三人の家族・遺族が訴えた。

 李春植(イチュンシク)さんの娘、李杲賱(イゴウン)さんは「父を苦労させたのは日本なのになぜ韓国政府が第三者弁済するのか。受け入れないのが父の意思だ。生きている間に日鉄から謝罪と賠償をかちとるよう父の世話を続けていく」。

 三菱広島に強制動員された故鄭昌喜(チョンチャンヒ)さんの息子、鄭鐘建(チョンジョンゴン)さんは「初めて三菱本社を訪れて失望した。物乞いにさえあんな扱いはしないだろう。亡くなった父は広島で被爆して一生苦しんだが、戦犯企業と一般の日本の市民と一緒にしてはいけないと常々私に語っていた。人の肩にぶつけたら謝るのが当たり前、それをしないのが戦犯企業三菱だ。私が望むのは父が一生かけて闘ってきた真の謝罪と賠償だけだ」。

 名古屋三菱元女子勤労挺身隊の梁錦徳(ヤングムドク)さんの息子、朴相雲(パクサンウン)さんは「私の母は、三菱名古屋工場で奴隷のように働かされた。母に代わって今朝、企業を回ったがすべて門前払いされた。母は、死んでも第三者弁済の汚れたお金は絶対受け取らないとの言葉を私に託した。母が望むのは企業の真の謝罪と賠償だ」。集会では約270名が耳を傾けた。

 この声をさらに大きく広げて問題解決への大きなステップにしていかなければならないと決意を新たにした。

(強制動員真相究明ネットワーク 中田光信)
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