2024年05月17日 1821号

【読書室/私たちの近現代史 女性とマイノリティの100年/村山由佳 朴慶南 著 集英社新書 980円 (税込1078円)/普通の市民がなぜ虐殺を】

 本書は、村山由佳、朴慶南(パクキョンナム)というの二人の作家が「女性とマイノリティの100年」と題して、戦争と植民地支配、今も続くヘイトや差別について対談したものである。

 村山由佳は、小説『風よあらしよ』で、1923年関東大震災で憲兵隊に虐殺された伊藤野枝、大杉栄を描いた。また『星々の舟』では父の戦争体験を追いながら朝鮮人慰安婦を描いた。

 『クミヨ(ゆめよ)!』などの著書のある朴慶南の祖父は関東大震災で殺されかけたという。彼女は家父長制の強い在日の家庭に育ち、自らも差別を受けた経験を持つ。

 対談では、 関東大震災の混乱の中で、朝鮮人虐殺が普通の市民によってなされたのはなぜか、を当時の資料をもとにさぐる。

 「朝鮮人を差別してきた日本人にとって復讐されるという恐怖があったのでは」「朝鮮人暴動のデマ情報を信じて、殺してもかまわないという異様な心理状態が作られていった」。さらに、劇作家の千田是也の言葉を紹介し「震災の混乱を利用して、階級対立を民族対立にすり替えることで、大衆の不満をそらそうとした。これはナチスがとった手段と全く同じ」と指摘する。

 「自分が小説で描いた100年前の暴力的時代に今近づいている。人の生活をほったらかして防衛費をこんなにしてどうするんだ」と村山は憤る。

 朴は、同性婚や夫婦別姓を認めない政治家たちに対しては、「個人間の恋愛関係も国家が思うようにしたいという権力意志を感じる」と言う。村山も「女性やマイノリティを抑圧する社会は、いつ軍事主導社会、戦争国家に行きついてもおかしくない」と鋭く批判している。  (N)
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