2025年05月30日 1872号
【食卓揺るがすコメ高騰/備蓄米放出でも止まらない/この秋に重大局面=z
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米価高騰への市民の怒りをかきたてた「コメは買ったことがない。売るほどある」発言の江藤農水相が辞任した。だが首のすげ替えで事態が収まることはない。
政府は今年春、備蓄米21万dの放出に踏み切ったが、値上がりは続き、放出後も沈静化の気配は見えない。
備蓄米の売り渡しは、買い戻し条件付き競争入札で行われた。最高価格を提示した業者を対象に、売り渡した量と同じ量を、秋以降、国が買い取るとの条件だ。最高価格を提示した業者に売り払うため価格の沈静化につながらない。売り渡したのと同量を国が買い戻すため不足解消にもならない。
日本では月に約60万dのコメが消費され、21万dは10日分に過ぎない。この程度の備蓄米放出で米価が沈静化するほうがおかしい。
買い戻し条件を付けたのは、コメ不足につけ込み高価格での販売を狙う業者の参加を防ぐことで価格高騰を一定範囲内に収めるという政策目的もある。一方で「米価高騰は流通段階での目詰まりが原因の一時的なもので、不足は起きていない」という国の体面維持の面も見逃せない。
この入札参加条件を満たせるのは事実上、全農(JA=農協の全国組織)、全集連(全国主食集荷協同組合連合会)程度に限られる。両者は食糧管理制度時代、政府管理米と並んで正規米とされる「自主流通米」の指定集荷団体としてコメ安定供給の役割を担った。
農林水産省は毎月、コメの「民間在庫の推移」を公表している。現時点で最新の3月時点の在庫を見ると、流通在庫の前年度割れは、コロナ禍とウクライナ戦争のダブルパンチを受けた2022〜23年度産米(マイナス20万d)から始まり、3年度連続だ。2023〜24年度産は対前年度比マイナス37万d、2024〜25年度産はマイナス35万dにも及ぶ。3年度累計での不足量はマイナス92万d。ウクライナ戦争開始前と比べると、流通在庫量は100万dも減っているのだ。
政府が公表している備蓄米の量は100万dであり、このまま推移すれば備蓄米も遠からず底をつく。「毎年100万dの外国産米を輸入するか、主食としてのコメを国民に諦めさせるか」の決断を政府が迫られる重大局面≠ェ、この秋にも訪れることになる。
北海道内農協の上部団体、ホクレンはすでに今年度産米はすべて主食用とし、備蓄米用としての出荷はしないことを決めた。市場原理による価格高騰に対処せず、農家・消費者の双方を切り捨てる新自由主義農政のままでは、農業・農村・食卓の危機はますます深刻化するだけだ。
(水樹平和) |
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