2025年06月13日 1874号
【集落崩壊―食料危機はすぐそこに/兵庫県豊岡市在住農業者・判田明夫】
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コメ問題が焦点となる今、実際に稲作を営む小規模農業者の実態はどうなっているのか。兵庫県豊岡市から報告を寄せてもらった。
「100人の日本という村は3人の農民が食の担い手で、一人は60歳代、もう一人はすでに70歳を超えている。このままいけば日本の食卓は老農1人が99人を支える異常な村になりかねない」(民俗研究家・結城登美雄「自給する家族・農家・村は問う」2008年)
私(68歳)がUターンした豊岡市但東(たんとう)町唐川(からかわ)区はどうか。54戸のうち農業を営むのは22軒。耕作できなくなった高齢者の農地を無償で一手に借り受ける農業法人U農園、1町5反(150e)の田と畑を持つ私、あとは5反(50e)以下と大別される。60歳以下の農業者は3軒である。
稲作で飯を食っているのはU農園のみだ。他の農業者は全員が「稲作は赤字」と断言する。私もこの7年間、確定申告で(労働に対する報酬を一切入れず)黒字になったのは3回だけである。稲作の赤字分を野菜販売で埋め合わせている。農機具の修理や新たな機械の購入が必要な年は、たちまち赤字に転じる。父(現在95歳)は「養鶏」「シイタケ」「ピーマン」など、たえず稲作以外に「儲かるもの」を営んできた。
農業者の多くは「今度コンバインがつぶれたら辞め時だなー」と言う。Iさんは「イネづくりはとっくにやめた。今は野菜一本や」。JA但東はピーマン栽培を強力に推し進めている。唐川地区でも3軒がピーマン栽培に活路を見出す。農家の「コメ離れ」、高齢化による離農が恐ろしいほどのスピードで進行している。
「農地の集約大規模化」で稲の供給力が確保できるのか―否である。まず、農地の多くは中山間地にあり、農業法人は田んぼが小さすぎ急斜面にあるため引き受けない。また、唐川区では年2回の村道の修復、年1回の用水路の土砂浚渫(しゅんせつ)を区の日役(ひやく 地域活動)で実施している。営農組合が高齢者の田んぼの草刈りを引き受け、防獣フェンスの点検と修理を行っている。このような集落機能があってこそ稲作を営むことができるのだ。但東町では、規模の小さな集落は中山間の草刈りを維持できず、農地が荒廃し木が生い茂っている。
米の安定した供給力を確保するには、零細の農業者に所得保障し、農業従事者を増やすしかない。農村の集落機能の破壊は保水力、豊かな生態系の破壊である。「今すぐ農民を救わなければ食糧危機はすぐ来る」―これが小さな村で農業を営む私の実感である。
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