2025年07月11日 1878号

【読書室/弾劾可決の日を歩く “私たちはいつもここにいた”/岡本有佳編著 タバブックス 1000円(税込1100円)/韓国社会の変革をリードする女性たち】

 尹錫悦大統領(当時)による突然の「非常戒厳」宣布に対し、韓国市民は民主主義を守るために果敢に闘った。後に「光の革命」と呼ばれるようになる弾劾デモの中心にいたのは20〜30代の若い女性たちだった。彼女たちは何に憤り、何を求めているのか。本書は日本の編集者による現地レポートである。

 尹錫悦政権はアンチフェミニズムを売りにしていた。「構造的な女性差別はもうない」と公言し、女性政策全般において予算を大幅に削減した。ジェンダー不平等を個人の能力の問題にすりかえていったのだ。そうした反女性・反人権政策に対する怒りが女性たちの根底にはある。

 そして、ここ10年間のフェミニズム運動の活性化は、韓国女性の思考や感覚を大きく変えていた。女性差別の問題だけではなく、性的少数者、障がい者、移住労働者、非正規雇用労働者など、あらゆる差別・人権侵害に対する感受性を強くしていた。

 そうした人びとが前面に出ることで運動のあり方は大きく変わった。集会では自由発言の場が設けられ、市民たちが自らの思いを語った。それは「周辺や底辺に位置付けられてきた人々の言葉の饗宴のようであった」という。

 本書副題の「私たちはいつもここにいた」は、ある女性アーティストが著者に語った言葉である。「社会の不条理に声を上げる女性は常にいた。可視化されなかっただけだ」という意味だ。「市民が共に社会を変えていく」という言葉を著者は何人もの集会参加者から聞いたという。大統領を変えることがゴールではない。「光の革命」は現在進行中なのだ。   (O)
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