2025年10月31日 1893号

【未来への責任(422) 戦後80年石破所感と遺骨問題】

 石破首相は退陣目前の10月10日、「戦後80年に寄せて」と題する6000字を超える「所感」を公表した。過去の談話と比べ超長文だった。これまでの談話が「あの戦争を避けることができなかったのかという点にはあまり触れられて」いない、として敗戦に至る日本の「誤り」を事細かに長々と教科書的に記述した内容である。

 戦後70年の安倍談話は「私たちの子や孫…に謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」として侵略と植民地支配責任に「ピリオド」を打とうとするものだった。

 そのことを石破首相はどうとらえたか。

 所感は、中国をはじめアジア侵略、朝鮮など植民地支配への反省の言葉どころか「中国」「韓国」という単語さえなかった。

 戦前の日本の「国策」の誤りの「教訓」を長々ととりあげただけで、安倍首相の意志を継ぐかのように、侵略戦争と朝鮮植民地支配の責任から目をそらせるものだった。

 戦後50年の村山談話―「植民地支配と侵略によって、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えた。痛切な反省と心からのおわび」という政府の歴史認識は、改めて書き換えられたといっても過言ではない。

 そのような状況の下、今、市民運動の力で、山口県長生炭鉱の強制動員犠牲者の遺骨収容が始まり、注目を集めている。合わせて、韓国人軍人軍属の遺骨問題も浮き彫りとなっている。

 戦没者遺骨について、遺族が高齢化していく中の2016年、収集を促進するための「戦没者の遺骨収集の推進に関する法律」が成立した。しかし、日本人として動員されながら韓国人軍人軍属は「我が国の戦没者」としては含まれなかった。

 この点について、当時の塩崎厚生労働大臣は「遺族の気持ちは国境に関係なく同じである。朝鮮半島出身者については、外交交渉に関わる問題であるが、遺族の気持ちに強く配慮をしていくべきという指摘、意向をしっかりと受け止め、韓国政府から具体的な提案があれば真摯(しんし)に受け止め政府部内で適切な対応を検討する」と答弁している。

 以降10年近く、韓国の遺族と、沖縄戦の遺骨問題に取り組むガマフヤーの具志堅隆松さんとともに厚労省や外務省との交渉を積み重ねてきた。

 そして今年、日本人遺骨の身元特定のためのDNA鑑定のめどが立ち、9月19日に韓国人軍人軍属の遺骨のDNA鑑定を求めて韓国の太平洋戦争被害者補償推進協議会と「戦没者遺骨を家族の元へ連絡会」が厚労省交渉を持った。ところが厚労省は「遺骨返還の在り方についての外交交渉が進まない限り、鑑定は進められない」というこれまでの議論を蒸し返す回答に終始した。

 遺骨返還をも日韓の外交問題だからと言って前に進めようとしない日本政府。過去清算に背を向け植民地支配責任を無視するその醜い姿は、石破「所感」そのものである。

(日本製鉄元徴用工裁判を支援する会 中田光信) 
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