2025年11月07日 1894号

【超タカ派高市政権発足/原子力潜水艦保有・武器輸出全面解禁/維新連立で戦争国家へ加速】

 高市早苗自民党政権が日本維新の会と組み発足した。両党の「連立政権合意書」及び高市首相の所信表明(10/24)は戦争国家に向けた軍事力強化のプランがいくつも示されている。安倍政権がつくった戦争法が侵略戦争を可能にし、岸田・石破政権がそれに見合う軍拡と組織作りを進めてきた。高市政権はそれをさらに加速する決意を示した。グローバル資本は今「戦争」を利潤追求の場に位置づけているのだ。

軍事費12兆円へ増額

 臨時国会に提出される補正予算の焦点は何か。マスコミがほとんど触れない軍事費の大増額だ。

 高市首相は所信表明で軍事費「対GDP比2%水準」を今年度中に達成するよう補正予算を組むと言った。当初予算8・5兆円(関連経費含め9・9兆円)の軍事費を約12兆円にするという。2年もの前倒し達成だ。

 岸田政権が「軍事費5年間で倍増」を打ち出した時は大問題になった。特に軍事増税には自民党内からも批判が続出。当時、経済安全保障担当大臣だった高市も「罷免覚悟」で反対した。

 ところがだ。高市自身による突然ともいえる「前倒し方針」に党内からの批判はない。既に2026年4月からの法人税、たばこ税の軍事増税が決まっているとはいえ、所得税増税は実施を先延ばし。23年度からは艦船や基地整備費は「建設国債」扱いにして借金で賄うことを正当化してきた。高市の「責任ある積極財政」方針は、戦費調達を国債に頼る「戦時国債」へ動き出す呼び水になるものだ。「軍事費増額反対」を臨時国会の最重要争点に押し上げなければならない。

 今年度、軍事費倍増を達成し、軍事3文書改定で次の軍事費拡大目標を定める。「対GDP比2%」のモデルだったNATO(北大西洋条約機構)は6月の首脳会談で35年までに「3・5%(関連費含め5%)」に目標を引き上げている。新軍事3文書がこれを目標とするのは明らかだ。

国立兵器工場を推進

 戦争国家へ加速する方針は、右翼好戦勢力である高市が首相になったからだけではない。利潤を求めるグローバル資本が「戦争」を有望な「市場」とみているからだ。

 軍事3文書の早期改定方針は総裁選の前、9月19日に防衛省の「防衛力の抜本的強化に関する有識者会議」(座長は経団連名誉会長榊原定征)の報告書を受けたものだ。「防衛と経済は『大砲かバターか』という二者択一ではない。防衛費の増額は防衛産業の強化につながる」と書くほど、軍事費拡大に期待を高めている。

 有識者会議は24年2月発足以来会議を重ね、新たな軍拡目標6点を打ち出している。提言3「我が国主導による戦略的視点に立った日米同盟の実効性向上、同志国との連携強化」に(防衛装備品移転)の項目がある。現在武器輸出を認めている5類型「救難、輸送、警戒、監視、掃海」のルールを「現実を勘案し、制限を設けないとする考え方も一案だ」と、控えめの表現だが、武器輸出に制限をつけるなと言っている。

 これを維新との合意文書は「26年通常国会で5類型撤廃」と方針化した。それだけでなく「防衛産業にかかる国営工廠(こうしょう)」や「国有施設民間操業」を推進すると言う。すでに防衛省は広島県呉市の日本製鉄跡地(旧海軍工廠)売買契約の基本合意を取り付けた。神奈川県横須賀市の日産追浜(おっぱま)工場跡地も取得に動いている。小泉進次郎防衛相の地元であり、そのための就任とまで言われている。

 「外交・安全保障」にかかる維新との合意内容は有識者会議の提言にあるものばかりだ。つまり、自維連立政権はグローバル資本が求める政策を忠実に実行する「優等生」ということだ。

核攻撃体制に接近

 自衛隊は連立政権の組み合わせが揺れる中でも、お構いなしに軍事演習を続けていた。10月20日〜31日には、陸・海・空3自衛隊の統合演習が過去最大規模で行われた。最重点は3月に発足した統合作戦司令部による指揮系統を確認することであり、あわせて39の民間空港・港湾を使用し、「戦時体制」を作り出すことにある。侵略軍として機能する組織作り、戦争への抵抗をなくす作戦を着々と進めているのだ。

 こうした動きの中で見過ごせないのが自民・維新合意にある「抑止力強化のために、次世代動力によるVLS搭載潜水艦」を保有するという方針だ。「VLS」とはミサイルの垂直発射装置。「次世代動力」は「原子力」を意味する。「スタンド・オフ能力を加速する」観点から「長射程ミサイルを搭載し、長距離・長期間、隠密裏に展開する戦略兵器」がいるのだという。これも有識者会議の提言そのままだ。

 「抑止力の強化」は「攻撃力の強化」と同義語である。原子力潜水艦は、戦略爆撃機・大陸間弾道弾とともに、核武装の必須アイテムだ。日本もいよいよ核保有への距離をじりじりと縮め始めたのである。

日米同盟を高みに

 有識者会議の「我が国主導による日米同盟の向上」の提言に呼応し、高市は「主体的に防衛力を強化」「日米関係を高みに引き上げる」と強調している。岸田も石破も同じように言ってきたが、米国製兵器の爆買いだけの軍事費増ではなくなっている。

 これまで見たように、日本の軍需産業は国家財政をあてにし、日本製兵器の生産、販売体制を構築することを狙っている。高市は所信表明で「官民が手を携えて行う危機管理投資」や「世界で最もAIを開発・活用しやすい国」「新技術立国」などとスローガンを並べているが、その分野の一つは軍需産業であることは間違いない。

 米国ではトランプ権による「2025年国防戦略」草案が8月末に出された。「アメリカ・ファースト」を反映して「中国の脅威よりも本土防衛最優先」(9/7米紙POLITICO)と評されている。高市はこの機に、対中国戦略でより大きな役割を果たすつもりでいる。「日米関係を高みに引き上げる」とは、そんな決意を示しているのだ。

   *  *  *

 高市は「鉄の女」と呼ばれた反共主義者サッチャー元英国首相にあこがれているそうだ。サッチャーは「ゆりかごから墓場まで」と言われた英国の福祉政策を破壊し、新自由主義政策を推し進めた。高市はかつてサッチャーに「社会主義者の福祉要求を切り捨てるのが政治家としての信念」と言われ、「(有権者の陳情を断れない)自分の弱さと未熟を恥じた」という(10/23毎日)。

 社会保障を切り捨て軍拡につき進む日本版「鉄の女」は早々に退陣させなければならない。





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