2025年11月07日 1894号

【読書室/福祉は誰のため?/竹端寛著 ちくまプリマー新書 900円(税込990円)/ともにケアし合える社会へ】

 大学で福祉を専門としない学生に福祉を教える著者は「生きづらさ」というテーマを設定した。「生活保護を受給してパチンコをしているのはズルなのか」「薬物依存で捕まった人は『ダメな奴』なのか」―社会でよく言われることを学生と一緒に考えていく。

 困難を抱える人を「困った人/ダメな人」と決めつけ「非難や否定」することは、いわば「後ろ向き責任」で本人を追い詰めるのだけだ。どうすれば困難を克服できるかと「前向き責任」を見据えた「批判」と支援が必要であり、それが福祉の役割だと著者は訴える。
著者は新自由主義が、競争を激化させ、「できる・できない」の画一的な基準で個人の「能力」を評価し、「能力」の高い人が富を総取りし、低い人は野垂れ死んでも構わないという論理だと批判する。例えば、障がい者が「普通」に生活できない理由を機能上の問題だとして、社会からの排除を合理化する論理だ。著者は、福祉においては「どうやったら障がい者の困難を取り除けるのか」を考える「実践の楽観主義」が重要なのだとしている。

 そもそも個人の「能力」は一人で形成されるのでなく、多くの人の支えによって築かれる「共同性」が本質なのだ。にもかかわらず「能力」の差異の原因を自己責任とするところに「生きづらさ」が生まれる。

 著者は、自身が今直面する子育て体験から、「ままならぬものに巻き込まれる」というケアの意味を見出し、自らの内にある能力主義的な価値観を転換していく。「困った人」ではなく「困っている人」に「実践の楽観主義」で社会がともにケアし合うことこそ福祉であると訴える。(N)
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