2025年12月05日 1898号
【原発のない地球へ(33) 福島原発事故と国際人権法―ダブルスタンダードは許されない】
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原発事故を人権の視点から考えたい。原発に起因した過酷事故は、放射能で広大な地域を居住不可能にする。自然災害と違って加害者がいる。被害者救済の国内法が実態と合わない時、人権を基礎に置くべきだ。国際人権法は、国や人種の違いを超えた普遍的意義を持っている。ところが福島県は、原発避難者の2つの住宅裁判(「住宅追い出し裁判」「住まいの権利裁判」)で、「(国際人権法は)個人に対し即時に具体的権利を付与すべきことを定めたものではない」とその適用を否定した。
この様な主張と対応を国際社会はどう見ているのか。国連は、国連憲章に基づく人権理事会と人権条約に基づく条約機関、2つの国際人権保障システムを制度化している。人権理事会は、加盟国の人権状況を4年半ごとに審査する「普遍的定期的審査(UPR)」と「特別報告者による特別手続き」の2制度で個人の権利保障を義務付ける。具体的権利に触れないよう定めたものではない。
2012年第2回UPRオーストリア勧告に従い、アナンド・グローバー特別報告者の来日調査が実現。「年間1ミリシーベルトを基準とした住民の権利保障への転換を」と勧告した。日本政府は膨大な反論書を提出し勧告を拒絶。その後2017年の第3回UPRでは「放射線の許容可能な線量限度を年間1ミリシーベルトに回復させること」(ドイツ)「国内避難に関する指導原則を適用すること」(ポルトガル)等4ヵ国から勧告がなされた。これに対し「勧告に同意する」としながら、放射能汚染が続く福島県への帰還強要、区域外避難者の住宅追い出しを強行した。明らかなダブルスタンダードだ。
さらに311子ども甲状腺がん裁判がおこされる中、2023年第4回UPRは10か国16勧告に拡大。「被ばくした全ての人に無料で定期的な総合医療を提供すること」 (パナマ)等、日本政府の口先の対応は見破られている。2022年には市民の粘り強い取り組みで国内避難民の人権に関する国連特別報告者セシリア・ヒメネス=ダマリーさんの訪日調査が実現。「国内避難民を公的住宅から立ち退かせることは、国内避難民に対する権利侵害である」と住まいの権利を勧告した。ヒメネス=ダマリーさんは、今年6月の最高裁共同行動へのメッセージで「現場の現実に基づいた国際人権法の実際に基づく勧告であることを理解していない」と国や福島県の誤った認識を強く批判し、「今でも勧告は有効である」とくぎを刺した。
また、日本政府は8つ(社会権規約、自由権規約、女性差別撤廃・子どもの権利条約など)の人権条約を批准し義務を負っている。2022年の「自由権規約第7回日本政府報告審査総括所見」では「『自主』『強制』避難者の区別や、自宅に戻る決断をしたか否かにかかわらず、すべての国内避難民が、避難区域外に住む避難民のための無料住宅の再開を含め、必要なすべての財政、住宅、医療、その他の支援を受けられるようにすること」と勧告している。
国際社会は、日本政府に対し避難の権利を認め国際人権法を遵守するよう繰り返し警鐘を鳴らしている。ダブルスタンダードはもはや許されない。(O)
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