2025年12月05日 1898号

【高市発言で加熱する反中国感情/集団的自衛権行使にも「賛成」/中国と戦争してもいいのか】

 高市早苗首相の「台湾有事」をめぐる国会答弁以来、「中国になめられるな」式の言説が国内で沸騰している。集団的自衛権の行使に「賛成」多数という世論調査結果も出た。短絡的な感情論に流されてはいけない。それは中国と戦争することを意味しているのだ。

ネットが煽る反感

 「国民的熱狂をつくってはいけない。その国民的熱狂に流されてしまってはいけない」。『日本の一番長い日』などの著書で知られる作家の半藤一利は「昭和史の教訓」をこう述べている。民衆の排外主義的な戦争支持が侵略戦争を可能にしたということだ。

 「満州事変」や日中全面戦争に突入していく過程で、世論は戦争支持一色に染まっていった。当時の主力メディアである新聞が「満蒙は日本の生命線」や「暴支膺懲(ぼうしようちょう)」(横暴な中国を懲らしめよ、という意味)といった戦意高揚のスローガンを連呼し、人びとを焚きつけたのである。

 高市発言後の日本をみていると、よく似た現象が起きていると言わざるを得ない。いわゆる台湾有事に自衛隊が参戦する可能性を語った高市首相への批判よりも、中国側のリアクションに対する感情的反発のほうがはるかに大きいのだ。

 現代における排外主義煽動の主役はインターネットである。著名人がSNSで「中国はけしからん」「日本をなめるな」といった発信をするとネットニュースが大きく取り上げる。あるいは、ワイドショー番組の司会者が「先にボールを投げたのは日本ですよね」的なコメントをすると、“こいつを叩け”的なニュアンスで報道する。

 昔の新聞社は売り上げを伸ばすために好戦的な記事を乱発したが(実際、販売部数は大幅に伸びた)。今のネットメディアは閲覧数を増やして広告収益を得るために刺激的な記事をつくる。昔も今も商業主義で動いていることに変わりはないということだ。

よくわからず賛成か

 今回の騒動の場合、中国を叩くための「ネタ」が豊富なこともあって(駐大阪総領事のX投稿や中国外務省幹部の「両手ポケット」対応など)、反中国感情はたちまち沸騰した。それが高市の集団的自衛権に関する発言に肯定的な風潮につながっている。

 共同通信が11月15・16日実施の世論調査で「あなたは、台湾有事で集団的自衛権を行使するという考えに賛成ですか、反対ですか」と質問したところ、「どちらかといえば」という人を含めて「賛成」が48・8%、「反対」が44・2%であった。若年層(30代以下)では「賛成」が6割近くに達した(表参照)。



 ANNも同じ時期に世論調査を行っている。こちらの調査では「日本が集団的自衛権に基づいて武力行使に踏み切ることも必要だと思うか」との質問に「必要33%、必要ない48%、分からない・答えない18%」という結果が出ている。

 「武力行使」の文言が質問に入るか否かで調査結果にかなりの差がある。「集団的自衛権行使」の意味を正しく理解せずに「賛成」した人が一定数いたと考えていいだろう。

 だからこそ強調する必要がある。今回の高市発言が事実上の戦争宣言であるということを。台湾をめぐって中国軍と米軍の武力衝突が発生した場合、自衛隊を参戦させ、中国と戦争をするということなのだ。

ただの失言ではない

 集団的自衛権とは「自分の国が攻撃されてもいないのに、他国が攻撃された場合に、その他国を守るために武力を行使する権利」のことを言う。第二次安倍政権が従来の憲法解釈を閣議決定で変更し、行使を認めた(2014年7月)。

 集団的自衛権の行使が可能になる状態のことを「存立危機事態」という。法的には「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」と定義される(事態対処法第2条4項)。

 どうにでもとれる文言だが、政府は安保法制(戦争法)の制定過程で「専守防衛の原則は変わらない。海外での武力行使を認めたものではない」と説明してきた。発動が可能になるケースを問われても「個別の状況に即し総合的に判断する」とごまかしてきた。

 ところが高市は11月7日の衆院予算委員会で、中国が台湾の海上封鎖をする想定について語った。封鎖を解きに来援した米軍を中国軍が攻撃した場合、日本と密接な関係にある米国の軍隊に対する武力行使なので「どう考えても存立危機事態になり得るケース」と答弁したのである。

 これは外交音痴ゆえの失言ではない。安倍晋三元首相は「台湾有事は日本有事であり、日米同盟の有事でもある」と語っていた(2021年12月)。これを現職の首相として宣言することが、安倍の後継者たる自分の使命だと高市は思っていたに違いない。いつかは「本当のこと」を言うつもりだったのではないか。

空自が攻撃のシナリオ

 米軍と自衛隊は台湾有事を想定した戦争計画を練っている。昨年2月に行われた図上演習では、米軍の要請を受け、台湾海峡を航行する中国軍の輸送艦を航空自衛隊の戦闘機が空対艦ミサイルで攻撃する判断が下されたという(4/6産経)。

 このシナリオが現実のものとなれば、中国軍は日本国内の米軍施設や自衛隊施設を攻撃する。有事の際には軍事利用される民間空港や港湾も標的になるだろう。戦火は日本全土を覆い、それこそ「国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される事態」になってしまうのだ。

 戦争で被害を受けるのは民衆である。高市は戦争挑発発言を撤回し、市民生活を圧迫する軍事費の増大もやめるべきだ。  (M)

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