2025年12月12日 1899号
【攻められてもいないのに参戦/高市「台湾有事」発言の真意/戦争の犠牲になるのは民衆】
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高市早苗首相の「台湾有事」発言をめぐり、日中間の緊張が急速に高まっている。それでも世論調査では高市発言を擁護する意見が多数派だ。集団的自衛権行使の意味が正しく伝わっていないのだろう。それは米国と手を組み中国と戦争をすることなのだ。
世論は味方と自信
「政府のこれまでの答弁繰り返すだけでは、予算委員会を止められてしまう可能性もある。具体的な事例を挙げて聞かれたので、その範囲で誠実に答えた」
11月26日の党首討論で、台湾有事に関する自身の国会答弁を追及された高市首相はこのように主張した。まるで質問をした側に非があるかのような言いぶりである。発言の撤回や反省の弁はなかった。
高市が強気の姿勢でいられるのは「世論は自分の味方だ」と感じているからだ。実際、報道各社の最新世論調査では、台湾有事が集団的自衛権行使の要件である「存立危機事態」になりうると述べた高市の国会答弁に肯定的な反応が多数派を占めていた。
毎日新聞の調査(11/22〜23実施)では「問題があったとは思わない」が50%で、「問題があったと思う」25%を大きく引き離した。自由記述では「日本の立場として当たり前のことを言っただけ」といった意見が多く寄せられ、否定的な意見は少数にとどまった。
産経新聞や一部週刊誌は、朝日新聞の「印象操作」が悪いと騒いでいる。デジタル版の初報タイトル(後に変更された)が「高市首相自身が“認定なら武力行使も”と述べたかのように読み取れる」と主張。これが中国側の過剰反応を招いたというのである。
さすがにこれは意図的な誤読というほかない。今回高市発言を伝える記事の見出しに「武力行使」を持ってくるのも当然だ。だが高市発言の意味、すなわち台湾有事で日本が「集団的自衛権」を発動したらどうなるかが、世間一般に正しく伝わっていないのは事実である。だから「武力行使」や「戦争」を強調されてもピンと来ず、高市サゲの言いがかりのように感じてしまうのだろう。
核戦争のおそれも
問題の高市発言(11/7衆院予算委)を改めて検証したい。高市は1年前の自民党総裁選で、中国が台湾の海上封鎖を行った場合は「存立危機事態になるかもしれない」と述べていた。その真意を立憲民主党の岡田克也議員に追及され、次のように答弁した。
「台湾を完全に中国・北京政府の支配下に置くようなことのためにどういう手段を使うか。(中略)いろんなケースが考えられるが、やはり戦艦を使って武力行使を伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になり得るケースであると私は考える」
これは高市個人の思い付きではない。政府・防衛省が実際に想定している台湾有事に関する政府の事態認定と自衛隊出動のプロセスである。それは3つの段階に分かれる(『世界』12月号/石井暁論文参照)。
(1)中国が台湾に侵攻し、米軍が軍事介入を視野に展開を決断した段階。日本政府は「重要影響事態」を認定。自衛隊は南西諸島に臨時拠点を設置する米軍の後方支援にあたる。同時に、「武力攻撃予測事態」を認定し、国民保護法にもとづき先島諸島住民の九州各県等への避難を開始する。
(2)中国軍と米軍の戦闘が始まった段階。日本政府は米国政府の要請に基づき「存立危機事態」を認定。集団的自衛権を発動して自衛隊が中国軍を武力攻撃する。
(3)中国軍が在日米軍基地や南西諸島の臨時拠点、自衛隊基地などに対する攻撃を開始した段階。政府は「武力攻撃事態」を認定し、個別的自衛権の発動により中国軍に武力行使する。
(3)にまで至れば日中全面戦争だ。ミサイル攻撃の応酬となり、日本全土が戦火に包まれる可能性が高い。
ちなみに、自衛隊と米軍が昨年2月に実施した日米共同指揮所演習「キーン・エッジ」では、航空自衛隊の戦闘機が中国軍の輸送艦をミサイルで攻撃したり、核兵器の使用を示唆した中国に「核の脅し」で対抗するよう、自衛隊が米軍に求める場面があったという。
現職の首相が台湾有事が起きれば日本への攻撃がなくても「参戦」する意思があると公言した高市発言のヤバさが分かってもらえただろうか。かつての侵略国から戦争挑発を受けた中国側が激しく反発するのは当然といえよう。

発言撤回を迫る時
存立危機事態とは「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」のこと(事態対処法第2条4項)。
冷静に考えれば、現実にはありえない事態といえる。日本が攻撃されたわけでもないのに、他国に対する武力攻撃をもって、日本の存立が脅かされ、人びとの生存権が根底から覆されることが明らかな状況がただちに発生するはずがない。
事実、2014年10月に当時の内閣法制局長官が国会答弁で「米軍への攻撃が日米同盟を揺るがすおそれがあるというだけでは存立危機事態にはあたらない」と述べている。これが世論の批判の中で成立した安保法制(戦争法)の限界だとすれば、高市発言は明らかに一線を踏み越えている。
高市が師と仰ぐ安倍晋三元首相は、首相を辞めた後の発言だが「台湾有事は日本有事」と述べていた。高市はこれを「安全保障の常識」として世間に認知させようとしている。戦争法の限界を突破するためだ。
ここで明確な発言撤回に追い込まないと戦争勢力は勢いづく。高市発言の危険な本質を明らかにし、戦争反対の世論を喚起することが求められている。(M)
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