2025年12月26日 1901号

【自衛隊機へのレーダー照射事件の本質/軍事演習=戦争準備の常態化】

 中国軍機が自衛隊機にレーダーを照射したとされる事件(12/6)は、日中間の新たな火種になった。日本政府は、高市首相の「存立危機事態」発言で中国を挑発した側に立ったが、レーダー事件を利用し挑発を受けた側(被害者)に転じようとしている。メディアは政府発表にはない「中国の狙い」をまことしやかに解説し、軍事的対抗を正当化する役割を果たしている。

被害者装う高市政権

 レーダー照射事件を利用しようとする日本政府の意図は明らかだ。

 12月7日午前2時。小泉進次郎防衛相は緊急記者会見を開き、「中国軍機による自衛隊機へのレーダー照射が6日16時32分と18時37分頃の2回あった」と公表。沖縄島南東公海上で中国海軍空母「遼寧(リャオニン)」から発艦したJ15戦闘機が「対領空侵犯措置」実施中の航空自衛隊F15戦闘機にレーダー照射する「危険な行為」に対し「強く抗議した」と語った。

 事件発生から7時間。深夜に記者会見すべき「緊急性」は何もない。かつて、中国艦船(2013年)や韓国艦船(18年)から自衛隊機・艦船がレーダー照射をうけた事件では韓国の場合28時間後、中国の場合は約6日後の発表になった。現場からの報告の遅れを理由にしているが、外交ルートでの事実確認が行われていたことは間違いない。

 今回の発表は、7日に防衛省で予定されているオーストラリア副首相兼国防相との会談、8日米国で行われる米豪外務・防衛担当閣僚会議(2プラス2)に向け、中国非難の材料を出しておきたかったからに他ならない。

 特にトランプ大統領から高市は「存立危機事態」発言に関連して「自制」を求められた(11/25電話会談)だけに、今回のレーダー照射事件をネタに「後押し」を得たかったに違いない。

危うい「空中戦」

 何が危険な行為だったのか。日本政府の発表では「今回のレーダー照射が航空機の安全な飛行に必要な範囲を超える危険な行為だ」という。これ以上のことは言っていない。

 航空機は安全飛行のため、周辺空域を探査・捜索するためにレーダーを照射している。戦闘機には捜索・追跡・射撃目的をカバーする1つのレーダーが搭載されている。照射を受けた側には、この目的の違いはわかるのか。

 制服組トップの内倉浩昭統合幕僚長は「その目的は明確には判別できない」と答えている(12/11)。「(後日の)分析結果も言えない」。つまり、断続的に30分程度、電波を感知したということ以上のことは言っていないのだ。防衛相が「必要な範囲を超える」と午前2時に発表したのだから、極めて危険な行為だったに違いないとの「憶測」を誘発させたのだ。

 マスコミではレーダー照射の意味を「自衛隊機にミサイルの照準をあわせる行為」と解説し、「引き金に指をかけた」とまであおっているのだ。

 中国政府は、自衛隊機が訓練空域に接近し妨害行為をしたと反論。両機の飛行ルートを図で示し、危険行為だったと非難している。当然、自衛隊機もレーダーで探査をし、中国軍機を追尾しているはずだ。そうでなければ「対領空侵入措置」の行動はとれない。


爆撃機が飛び交う脅威

 現段階では真相は不明だが、どの国でも政府の都合に合わせて情報が操作されることは間違いない。政府発表をことさら対立をあおるように解釈するムードを警戒しなければならない。

 事件の本質は、日中両軍が目と鼻の先で「仮想敵国」に対する軍事演習を繰り返していることにある。

 レーダー照射事件の2日後、8日に中国軍とロシア軍の爆撃機4機と戦闘機が四国沖の太平洋上を長距離飛行した。年度計画に基づく訓練飛行で9回目と言われているが、木原稔官房長官は「度重なる爆撃機の共同飛行は、我が国に対する示威行動で、安全保障上重大な懸念と考える」と指摘した(12/10記者会見)。

 同じことを日米両軍も行っている。10日、核兵器の搭載が可能なB52米戦略爆撃機2機と自衛隊戦闘機F35、F15各3機が参加した共同訓練を日本海上で実施した。「日米の強い意志」を示すためだそうだが、中国から見れば「我が国(中国)に対する示威行動で、安全保障上の重大な懸念」であることは明白だ。

 すべての政府は、緊張をあおり、戦争を準備する軍事演習を即刻中止すべきだ。

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