2025年12月26日 1901号

【最高裁違憲判決も否定/生活保護減額に執着する高市政権/根本に軍事費捻出ありき】

 生活保護減額に対する最高裁の違憲判決から4か月後、やっと高市首相が「深く反省し、おわびする」(11/7)と口にした。ところが、生活保護行政を担当する厚生労働省は「敗訴と認めていない」(11/22福祉新聞)どころか、再減額と分断を持ち込もうとしている。反省もおわびも口先だけであり、しかも司法判断をも否定するものだ。

 さまざまな施策に影響を与える生活保護の減額は、社会保障全体の給付減、負担増と連動している。この背景に高市政権の軍事化優先方針が読みとれる。生活保護など社会保障を縮小させて軍事費を捻出する必要があるためだ。再減額と分断という攻撃は、生活保護の枠を超えた社会全分野に関わる問題となっている。

最高裁違憲判決とは

 2013年度から3年間にわたる生活扶助基準額の引き下げは生活保護法違反として、全国1000人以上の受給者が減額処分の取り消しと国家賠償を求めた裁判(いのちのとりで裁判)が現在も各地で続いている。2件の訴訟について最高裁第三小法廷(宇賀克也裁判長)は6月27日、減額処分を違法とする統一判断を行い厚労省を断罪した。

 この減額攻撃は、自民党が12年総選挙公約で生活保護給付水準の10%削減を掲げたことに起因する。この選挙で政権復帰を果たした安倍政権は13年通常国会に生活保護費を670億円削減する予算案を提出。すぐさま公約を実行したのだ。

 この動きに忖度(そんたく)した厚労省は、消費者物価指数が高かった08年とその下落幅が大きくなっていた11年を比べる恣意的な操作を行い、消費者物価指数を偽装した。

 この偽装についての反省と謝罪が必要であるにもかかわらず、厚労省は専門委員会を設置して問題を封じ込めようとした。そして、同委員会が11月18日に報告書を公表したのを受け、厚労省は「対応の方向性」を21日に出した。


全受給世帯に全額補償を

 「対応の方向性」は、最高裁判決が「ゆがみ調整」(厚労省側は年齢、地域などで不均衡があるとして恣意的に是正=jを違法としなかったことを口実に、これを再度実施して2・49%減額する(図)、さらに原告のみ特別給付金を支給するとするものだ。

 専門委員会の中からも「偶然、原告になった人はおこぼれが余分にあるみたいな解決はあまり適切ではない」との指摘があったにもかかわらず、原告に限った給付金を支給するとした。

 「いのちのとりで裁判全国アクション」は、こうなる疑念を持っていた。すでに8月12日の専門委員会設置強行に抗議する声明で「別の理由をつけて生活保護基準の減額改定を行おうとしているのではないかとの疑念」を表明し、新たな減額改定が法の不遡及(ふそきゅう 過去にさかのぼって適用することはできない)原則に反すると批判していた。この疑念と批判が現実となった。分断を持ち込んで、いのちのとりで裁判運動をつぶそうとする狙いである。

 全国アクションは11月21日、緊急声明「生活保護利用者の人間の尊厳を再び踏みにじる司法軽視の再減額方針の撤回を強く求める」を出し、全受給世帯への全額補償を求め闘いを広げることを訴えている。全国の法学者120人も「法治国家の破壊」と指摘する緊急声明(12/9)を発した。

軍事より社会保障を

 好戦的な高市政権は、軍事費大幅増のために、こうした強引な手法によって生活保護を縮小し、医療や介護など社会保障全体の削減もいとわないのだ。

 生活保護の基準は、47の制度で指標とされている。たとえば、介護保険料・利用料の減免、国民年金保険料の減免、保育料、就学援助などだ。社会生活に直結する制度の下支えをしており、生活保護削減がもたらす影響は非常に大きい。

 多くのメディアも「歴史に残る判決を機に生活保護基準の意味を社会に浸透させたい」(7/11朝日)とする。その通りだ。しかも今、深刻な物価高が進行する中、生存のためのぎりぎりの収入を減額することなど決してあってはならない。

 必要なのは、軍事ではなく社会保障の拡充だ。

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