2026年01月16日 1903号
【読書室/パレスチナ実験場 世界に輸出されるイスラエルの占領技術/アントニー・ローウェンスティン著 河野純治訳 岩波書店 3600円(税込3960円)/占領ビジネスの実態を暴く/イスラエル化しつつある世界】
|
イスラエルはなぜ不当で違法なパレスチナ占領を継続できるのか。各国政府はなぜ真剣に止めようとしないのか。今回紹介する『パレスチナ実験場』は、そうした疑問に答えた一冊である。BDS(ボイコット、投資撤退、制裁)運動を広げる上で必読の文献だ。
排外主義の実験場
著者のアントニー・ローウェンスティンはユダヤ系オーストラリア人で、徹底的な調査報道で知られるジャーナリストである。代表作の『惨事便乗型資本主義―大惨事から大儲けする方法』(未邦訳)では、多国籍巨大企業が戦争や災害をビジネス化している実態を描き出した。
本書では「イスラエルはパレスチナを兵器と監視技術の究極的なライブ実験場として利用している」と主張する。実際、イスラエルの軍産複合体は「ガザで実戦テスト済み」の兵器や監視技術(ノウハウを含む)を世界各国に販売し、莫大な利益を上げている。
そうした「パレスチナ実験場」の役割を、著者は権威主義へと傾斜する今日の国際情勢と関連づけて考察している。すなわち世界各国で自民族中心主義を唱える極右勢力が台頭する中、国家による情報統制や監視の強化が進んでいることとの関係だ。占領下のパレスチナこそ、その流れの結節点であるというのだ。
パレスチナに対する「占領の思想と手法」はイスラエルを経由して世界に拡散している。同国のネタニヤフ首相はかつて「私たちが彼ら(世界)のようになるよりも、彼らが私たちのようなるだろう」と豪語したが、その予言は現実のものとなりつつある。
売れ筋は弾圧の技術
本書は、パレスチナ占領から経済的利益を上げ、政治的恩恵を得ている世界規模の共犯ネットワークの実態を実証的にあぶりだす。まずは、イスラエルの武器開発・輸出の目的が自国の安全保障にとどまらず、その「経済的、外交的存続」にあったことが示される。
世界が占領を正当化することをイスラエルは必要としており、その占領を維持するために使用される技術を「名刺代わり」に売りこんでいる。「イスラエルがアフリカのどこかの国にサイバー監視システムを売れば、国連での一票を確保できる」というわけだ。
具体例をあげよう。トランプ米政権が主導する「アブラハム合意」が2020年8月に締結された際には、電話端末ハッキングツール「ペガサス」の輸出が、アラブ首長国連邦(UAE)やバーレーンを勧誘する手段として使われた。
ペガサスを開発したNSOグループはイスラエル軍の諜報機関8200部隊の出身者が設立した国策企業である。同部隊は占領地のパレスチナ人を監視し、彼らの個人情報や政治的傾向を分析することを主任務としている。占領で培った監視技術が外交上のエサになっているということだ。
高性能のスパイウェアであるペガサスを「独裁国家の無法者たち」は好んで買い求めた。ハンガリーの極右政権を率いるオルバン首相は野党政治家をスパイするためにペガサスを購入した。サウジアラビア政府は反体制派を投獄して拷問するためにペガサスで動向を監視している。
このほかにも「パレスチナ実験場」由来の弾圧装置が世界に広まっている例はたくさんある。スマート・シューター社製の群衆制御システムがそうだ。これは遠隔操作で催涙ガスや閃光手榴弾を発射することができる装置で、ヨルダン川西岸地区の都市ヘブロンに配備されている。同社はこの装置を世界12か国以上に販売しているという。
欧米諸国の偽善
イスラエル製の兵器や監視装置を必要としているのは独裁国家だけではない。民主主義と人権尊重を共通の価値観としているはずの欧州諸国もそうなのだ。
たとえば移民の流入阻止に、ガザでの戦争で使用されてきた無人航空機(エルビット・システムズ社製やイスラエル・エアロスペース・インダストリーズ社製など)が使われている。また、EU(欧州連合)域内の22の法執行機関は前述のNSOグループと契約を結んでいた。スぺイン当局はペガサスを使ってカタルーニャ独立派の政治家を盗聴していたという。
イスラエルの武器製造業者は「欧州人は世間知らずだ。人権があると思っている。プライバシーがあると思っている。だがそれはナンセンスだ。テロと戦う唯一の方法は、外見と肌の色で人を判断することだ」とうそぶいていたという。欧州の支配層も実はこれに同意しているということだ。
米国はどうか。米国とメキシコとの国境はイスラエルの警備・監視企業にとって主要な拠点となっている。エルビット社は10年間で5億〜7億ドルの費用がかかる監視塔の建設を請け負った。これもヨルダン川西岸地区でパレスチナ人監視に使われているものだ。
日本の市民への警鐘
著者は日本語版の序文で、日本政府がイスラエル製の兵器や監視技術の購入にますます熱心になっていることを厳しく批判している。昨年9月、東京で行われたサイバーセキュリティ技術の展示会において、日本の企業や当局はパレスチナで進行する戦争犯罪は無視し、イスラエルの兵器や技術を熱烈に支持した。
さらに、防衛省が契約購入した攻撃用ドローン7機のうち5機がイスラエル3社製の機種であった。同省幹部は国会答弁で「実証で求める機能・性能を満たしている」と公言した。日本政府もまたパレスチナ占領地を「実験場」として利用しているのである。
著者が強調するように、「パレスチナ実験場」を終わらせるには糾弾が不可欠だ。イスラエルの「戦争マシーン」を拒絶する市民の取り組みを広げていくために、本書に学び、活用していきたい。 (M)

 |
|