2026年01月30日 1905号

【米軍ベネズエラ侵略の意味するもの/利潤求め武力行使―凶暴さ増すトランプ/グローバル資本主義の末期症状】

 ベネズエラ侵略やコロンビア、イランなどへの軍事圧力を加える米政府。「世界の警察官」をやめると公言したトランプ政権は凶悪犯罪者の姿をむき出しにした。そのトランプ政権と黄金時代をうたう高市政権はとがめるどころか、擁護さえする。力づくで「国益」をもとめる強欲さはグローバル資本主義の末期症状だ。

対中戦略の修正

 トランプ政権は、ベネズエラで市民を殺し大統領を誘拐した数日後、メキシコに対し「陸上で(麻薬カルテル)対策を開始する」と語った。コロンビア、キューバなどに対しても軍事攻撃を示唆する脅迫を行っている。ベネズエラの原油のみならず、中南米諸国の資源、政治まで支配しようというのだ。

 軍事侵略、つまり強盗殺人、誘拐、脅迫―凶悪犯罪を次々と実行するトランプ政権は、1期目以上に凶暴さを増している。12月に発表した「国家安全保障戦略」(NSS)では、「地球規模の負担は国益に反する誤った政策」とこれまでの政権の政策を否定し、「西半球優先」を鮮明にした。その実践がベネズエラ侵略と他の政府への脅迫だった。

 目的は何か。NSSには「われわれ(米国)を第1の選択肢として認識させるとともに、あらゆる手段を使って、他国との協力を抑制する」と書いてある。

 他国とはどの国のことか。「非西半球の競争国は、…われわれの半球に進出している」。名指しこそしないが中国であることは明白だ。

 トランプは1期目から対中国貿易赤字の解消をめざし中国製品の締め出しを狙ったが、効果はなかった。対中国封じ込めを意味する「自由で開かれたインド・太平洋」では日本、韓国など同盟国を表に出し、米軍は「われわれ(米国)の西半球」からの中国排除に重点をおいた。

 NSSは対中国経済戦争の主戦場に中南米諸国を位置づけ直したということだ。

「裏庭に中国進出」

 実際、中南米諸国に対する中国の影響力はどうなっているのか。たとえばベネズエラの原油は8割が中国に輸出されている。ペルーの銅は7割以上が中国むけであり、鉱山も中国企業が運営。ブラジル、チリは中国が最大の貿易相手となっている。

 中南米の33か国が加盟するCELAC(中南米・カリブ諸国共同体、2011年結成)には米国、カナダは参加していない。米国の介入を警戒したからだ。一方中国とは、当初から協力関係を築いている。

 域内の人口は6・5億人、GDPは約7兆ドルの巨大経済圏(ASEAN〈東南アジア諸国連合〉4兆ドルを上回る)を形成している。中国との貿易は5千億ドルを超え、35年には米国を上回る可能性がある。

 トランプが大統領就任早々に打ち出した関税政策は、中南米諸国と中国との経済的な結びつきを一層強める結果となった。25年5月、北京で開かれた中国・CELACフォーラム第4回閣僚級会合では中国が660億元(約1兆5千億円)の人民元貸出枠による資金を提供するとした他、コロンビアが中国の「一帯一路」構想に署名、ブラジルは30件の経済協定を成立させた。

 トランプは24年の大統領選挙で「米国は世界の警察官ではない」「自分の裏庭を守るべきだ」と繰り返し訴えていた。中南米諸国はすべてが反米政権ではないものの、もはや「米国の裏庭」ではなくなっている。


軍需産業の隆盛

 NSSには米国経済の厳しい現状が正直に書かれている。「米国が望むもの」として「世界最強の産業基盤」「世界最先端の科学技術」を挙げ、それが「強さの基盤」だと言っている。つまり、米国経済は産業基盤が崩壊し、先端科学技術の優位性も失いつつある危機感が表明されているのだ。

 製造業の生産高で米国を09年に追い抜いた中国は、23年には米国の1・8倍の規模に達している。米国では製造業の労働生産性は悪化し、製造業雇用者数はピークであった79年の65%(24年)まで減少している。

 最先端の科学技術、特に半導体は武器の性能に直結するため中国への輸出規制をかけた。ところが中国はAIチップや最先端半導体製造用露光装置を独自に完成させた。対中輸出規制は逆の効果をもたらしたのだ。

 米国製造業の劣勢は明らかだ。米グローバル資本は海外生産や金融市場への投資で利潤を上げようとし、米国内での設備投資には消極的だった。だがその中でも軍需産業は、国家が利益を保証する安定した投資先だ。欧米軍需企業大手8社の設備投資は過去最高105億ドル(約1・5兆円)になっている。

 トランプは26年度軍事費9千億ドル超(約142兆円)の承認後すぐに、27年度には1兆5千億ドルに増額する意向を示した。米国史上最高額を更新する。

 経済力で勝てないなら軍事力で「国益」を守る。全地球を市場として熾烈な利潤争いをする米グローバル資本にとって、権益を確保するために軍事攻撃と軍事的圧力が必要なのだ。


地域から社会主義

 トランプはベネズエラの大統領マドゥロを「麻薬組織を先導している」として拘束した。「独裁者だ」とも言っている。そんな名目で、米軍の侵略を正当化できるはずはない。ベネズエラの政治はベネズエラ市民が選択することだ。

 ベネズエラでは、反米・社会主義を掲げた前大統領チャベスの下で、地域共同体運動が進められた。都市や農村、漁村などで、雇用、教育、医療、福祉から道路、水などの問題を共同で解決するコミュニティーづくりだ(『地平』25年4月号)。

 1300家族で構成されるある共同体では、市民食堂や保育園、診療所、理髪店、美容院などが無料で利用できる。運営費は市から支給される。国有化した石油資源が大きな財源であったことは間違いない。

 トランプは、マドゥロ夫妻の拘束だけで、政治体制を転覆させることはできなかった。地域に根をはった共同体運動が、新自由主義復活を唱える勢力に加担しなかったということだ。

   *  *  *

 トランプ政権と「新たな黄金時代」を築くという高市政権は米政府の侵略行動を批判しない。トランプと同じように、過去最高額の軍事費をますます積み上げ、自前の軍需産業を大きく育てようと企てている。

 世界で引き起こされている戦争、そして貧困・格差拡大はグローバル資本主義が原因であり、その転換なくして解決はできない。「軍拡阻止、福祉・生活に予算を」。いつも以上に必要な要求だ。民主主義的社会主義の政策を掲げ、衆院選に勝利しよう。

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