2026年02月27日 1909号
【自民圧勝をもたらした高市推し/現状打破の渇望を吸収/政策論争より「夢」を売る】
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自民党が単独で定数3分の2を超える316議席を獲得した衆院選。地滑り的圧勝の原動力は高市早苗首相個人の人気であった。彼女はなぜ、現状打破を求める人びとの期待感を味方につけることができたのか。高市推しを公言した人たちの声から考えてみたい。
若者・無党派の支持
今回の衆院選では、若年層や無党派層からの支持が自民党圧勝の原動力になったとみられる。読売新聞が実施した出口調査の結果をみていこう。
比例代表の投票先に自民党を挙げた人は37%に上り、中道改革連合の16%などを突き放した。自民が大敗した2024年の衆院選で自民に投票したと答えた人は若年層ほど少なかったが、今回は18〜29歳が38%と高かった(18ポイント増)。
回答者の21%を占めた無党派層に比例の投票先を尋ねたところ、自民党が27%と最多だった(2位は中道改革連合で15%)。前回、自民は15%で、立憲民主党の25%や国民民主党の17%を下回っていた。
無党派層の高市内閣支持率は66%に上る。この高市人気を背景に、無党派層や若年層の多くが自民に流れたとみられる。実際、報道各社が聞いた有権者の反応をみると「自民というより高市さんに期待した」という声が実に多いのだ。
実際に投票した広島市内の有権者200人に対し、朝日新聞が「高市内閣を支持する理由は何か」と尋ねたところ、一言目に返ってきた言葉で最も多かったのは「女性」である。そう答えた34人のうち30人が女性だった。「同じ女性だから応援できる」「女性初なので頑張ってほしい」等々。
同じく多かったのは「きっぱり」「はっきり」といった明確さを表す言葉で、34人が答えた。政策に触れたのは33人。このうち外交をあげたのは15人で、「中国への毅然とした態度」などの声が上がった。ガソリン減税など経済政策をあげたのは7人だった。
「具体的にはわからないけど、色々とやってくれそう」など、22人が期待感を示す言葉を口にした。「行動力」「実行力」といった積極的な振る舞いを評価する言葉をあげたのは21人。「元気」「明るい」など人柄や雰囲気をあげたのは17人だった。

女性初への期待
新聞各紙が取材した「街の声」をみていく。東京・秋葉原で高市の選挙演説を聞いていた19歳の大学生(女性)は「自民はおじさんくさいイメージで印象が良くなかったですが、女性初首相の高市さんになって変わってくれるんじゃないか」と話す。
東京都の看護師(41・女性)は、高市を一目見たいと思い、家族3人で街頭演説に出向いた。賃金や社会保障が今後どうなるのかは気になるが、「高市首相は何かしてくれそうという期待感がある」と言う。
福岡市の会社員(29・男性)は、高市の「他国にものを言う」姿勢に「やっとまともな人が出てきた」と感じたという。さらにティックトックの高市絶賛動画を見て、応援したい気持ちが高まった。「政策よりも、応援したいと思えるかどうかで判断した」
中国への強い態度を支持する理由にあげる人も多い。横浜市の女性パート社員(64)は「今までの首相と違ってはっきりものを言うのが好感を持てる」。福岡県の女子高生(18)は「中国にもはっきりとものを言うのがかっこいい。スパイ防止法を進めてほしい」。
大阪市生野区の障害者施設経営者(48)は「停滞する経済を変えてくれそうで、高市さんに託したくなった」と話す。東京都荒川区の会社員(23)は「責任ある積極財政」という言葉に引かれたという。いずれも期待感先行の評価だ。
東京都北区の男性(25)は、連日スマホに表示された高市の演説動画や切り抜き動画に共感し、小選挙区で自民党候補に投票した。「持病を抱えながら全国を演説で回る姿を映したSNS動画で、首相の懸命さが伝わってきた」。京都市右京区大学生(20)は、高市がメイクやファッションの話を「おちゃめ」にしている動画を見て「親近感が湧いた」という。
積極財政と反中国
このように、自民党は高市の「新しさ」を有権者に刷り込んでいった。「おじさんだらけ」の政治の世界で、実力で日本初の女性総理に登り詰めた高市さんなら「閉塞状況にある今の日本を変えてくれるのではないか」というわけだ。
日々の生活を乗り切ることに精一杯で、政治や社会の問題を考える余裕がなく、変革の展望を見出せずにいるのは若い世代に限った話ではない。そうした人びとに高市は「日本はまだまだ強くなれる」式のポジティブ思考をアピールした。
「積極財政」という決めゼリもその一つで、アゲアゲ感を出すことを重視した(具体的な中身を語るとボロが出るからでもある)。そのように振る舞う高市を、仏ラジオ局の東京特派員は「夢を売るアイドル」と表現した(2/14毎日)。
世間に蔓延した反中国感情を味方につけることにも成功した。経済力で中国に追い抜かれ、尊大な態度をとられても黙って耐えるしかない―。そんな没落ニッポンのイメージを多くの人びとが自分の境遇と重ね合わせ増幅させていた。被害者意識を抱く彼らにとって、「中国にガツンともの申す」高市は、砕け散った自尊心を一時的ではあれ回復させてくれる癒しの存在なのだろう。
苦しみの元凶は
このように、現在の高市人気はデマゴギーの上に成り立っている。ただし、そうした現象の背景には人びとが直面している紛れもない現実がある。苦しくなる一方の生活、没落への不安感、現状打破の渇望だ。残念ながら、多くの人は自己責任論などに阻まれ、自分を苦しめている者の正体を認識できずにいる。だから高市が救世主であるかのように錯覚してしまうのだ。
明日の生活改善につながる具体的な政策を示し、それを実践することを通して、労働者・市民の苦しみの元凶がグローバル資本主義であるという共通認識を育んでいく――民主主義的社会主義の実現を目指す私たちに求められているのは、こうした足元からの取り組みではないだろうか。(M)
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