2026年03月20日 1912号

【トランプ支持層に亀裂広がる/エプスタイン文書の衝撃/「人道に反する罪」との指摘も】

 未成年への性犯罪で起訴され、勾留中に死亡した米国の資産家ジェフリー・エプスタイン氏に関する捜査資料、いわゆるエプスタイン文書が波紋を広げている。文書にはトランプ米大統領を含め、政財界の大物の名が多数あった。一体、何が書かれていたのか。

大規模な性犯罪

 イランに対する軍事攻撃の成果を誇るトランプ大統領。得意の絶頂かのように見えるが、内心では大いに焦っているに違いない。連邦議会の中間選挙が11月に控えているというのに、政権に対する不信感や批判が岩盤支持層の内部から噴出しているからだ。

 「トランプ離れ」を招いた要因と言われているのが、エプスタイン事件への対応である。未成年への性的人身売買容疑で起訴された米国の資産家ジェフリー・エプスタインによる一連の性加害事件のことだ。

 エプスタインは1953年生まれ。大手投資銀行ベア・スターンズ勤務を経て独立。億万長者の資産管理や税務アドバイスで成功したと言われるが、具体的に何をして莫大な富を築いたのか不明な点が多い。

 未成年女性への性的虐待が発覚したのは2005年。14歳の少女の親が「娘がエプスタインの邸宅で性的虐待を受けた」と警察に通報したことがきっかけだった。フロリダ州の地元警察とFBI(連邦捜査局)が捜査に乗り出し、2008年に逮捕された。

 フロリダ州は性犯罪への懲罰が厳しく終身刑もあり得た。だが、量刑は禁固18か月(実際には13か月で釈放)。大金で雇った弁護士と後に第一次トランプ政権の労働長官となるアコスタ連邦検事との間で司法取引が行われた結果だった。

 事件が再燃したのは10年後である。マイアミ・ヘラルド紙のブラウン記者の調査報道によって、多くの被害女性の証言や権力による隠蔽工作の実態が明らかになったのだ。この報道が世論を動かし、2019年のエプスタイン再逮捕につながった。

政財界との癒着

 エプスタイン事件が世界を揺るがしているのは、彼が政財界の大物たちに未成年の女性をあっせんしていた疑いが浮上しているからだ。たとえば、当時17歳の女性が英国のアンドルー元王子との性行為を強要されたと証言している。

 米司法省が公開した大量の捜査資料には、クリントン元大統領など著名人の名前が多数登場する。彼らのすべてが性犯罪に関与していたというわけではないが、公職からの追放や要職の辞任に追い込まれる事案が相次いでいる。

 最も注目されるのは現職の大統領であるトランプとの関係だ。司法省は3月5日、トランプの性的暴行疑惑に関する証言資料を新たに公開した。この女性の証言によれば、13〜15歳の頃、エプスタインに引き合わされたトランプから性暴力を受けたという。

 エプスタイン文書の公開をめぐり、トランプの態度は二転三転している。自身の岩盤支持層は「リベラル派エリートによる組織的性犯罪の証拠」として全面公開を求めてきた。トランプも大統領選挙の過程では公開を約束していた。

 ところが大統領就任後は幕引きに走り、納得しない一部の支持者を「愚かな人びと」呼ばわりした。これが激しい反発を招き、未公開資料の全面開示を司法省に義務付ける法案が超党派で可決された。それでも自分に関する文書を隠そうとしたトランプに、多くの支持者が失望し批判に転じているというわけだ。

イスラエルとの関係

 日本のメディアはエプスタインとイスラエルの関係をほとんど報じていない。ユダヤ系米国人であるエプスタインはイスラエル関連の組織を財政的に支援していた。イスラエル国防軍の支援団体や、入植地活動を支援する「ユダヤ民族基金」などに数万ドルを寄付していた記録が残っている。

 バラク元首相とは特に親密な関係にあった。バラクが設立した監視技術のハイテク企業に対し、エプスタインは数百万ドルの投資を行っていた。ニューヨークのエプスタイン邸にバラクが頻繁に訪れていた記録も残っている。

 一部のメディアは「イスラエルの対外諜報機関モサドの協力者だったのでは」と疑っているが、同国政府は否定している。エプスタイン文書の全容解明が待たれるところだ。

   *  *  *

 国連人権理事会が任命した独立専門家パネルは、エプスタイン文書に記述された犯罪行為について「人道に対する罪の法的基準を満たす可能性がある」と指摘。独立した徹底的かつ公平な調査が必要だと表明した。

 トランプが自身のスキャンダルから目を逸らさせるために対外戦争を仕掛けたとしたら、それは言語道断というほかない。 (M)

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