2026年03月20日 1912号

【読書室/百年の挽歌 原発、戦争、美しい村/青木理著 集英社 2000円(税込2200円)/102歳の古老はなぜ自ら命を絶ったか】

 2011年3・11から15年。2万2千人超の東日本大震災死者・行方不明者のうち、震災関連死は3810人で福島県が2350人と突出する(25年12/31復興庁)。自ら命を絶った飯舘村(いいたてむら)の大久保文雄はその一人だ。

 「文雄は生涯のすべてを農に捧げた全身全霊の農民であった。その人生は一貫して故郷・飯館村の山と土とともにあり、102年の一生をほぼ費やした結晶というべきものこそが、手塩にかけて耕しつづけてきた村の田畑群でもあった」

 文雄の自死は福島原発事故1か月後のことである。なぜ102歳まで生きてきた人物が自死を選んだのか。著者は、十年をかけてその原因と背景を探っていく。

 原発事故が直接的な引き金になったことは疑いないが、問題はそれだけではない。より深い動機がなければ自死には至らない。

 著者は文雄の親や弟の生涯に分け入っていく。15歳年下の弟は硫黄島で戦死した。文雄は徴兵に至らなかったが、弟や村出身者の戦死に思いを馳せた。「文雄の自死は、故郷を追われることへの深刻な悲嘆と絶望のみにとどまらず、重大な国策の過ちによって運命を翻弄(ほんろう)された兄弟の、そのふたり分の怒りを満身に込めた抗議の行動だったと受けとめるべきではないか」

 102歳まで穏やかに生きてきた人物が自死した意味は計り知れない。弟が戦争で殺され、自身も原発で殺された。この事実はとてつもなく重い。文雄「じいちゃん」の自死に、長男の妻美江子は、そう追い込んだ東京電力の責任を問い提訴し2年半後完全勝訴する。

 被害者の一人を追ったルポルタージュ。背後に何万もの被害者がいることを改めてかみしめたい。(T)
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