2006年12月22日発行966号 ロゴ:なんでも診察室

【ノロウィルスの治療】

 「この子、朝から吐いて、下痢も」と力なく言うお母さん。そのお母さんも下痢をしていてノロウイルス(以下、ノロ)だと言われたとのこと。まったく、これだけマスコミで騒がれますとすべての嘔吐・下痢がノロのように思えます。しかし、冬に多い嘔吐や下痢をする病気は、ロタウイルス、腸管アデノウイルスなどもあります。ノロは症状が軽い方で、嘔吐は1日程度、下痢も数日で終わります。

 ノロのことはマスコミでたくさん報道されていますが、その治療については、スポンサーを気にしてか、あまり正確に報道されていないようです。

 まず、嘔吐です。日本で繁用されている嘔吐止めはお勧めできません。メトクロプラミドという薬は嘔吐を多少は早く治しますが、その代わり下痢を長引かせます。しかも、副作用として身体をくねくねさせたり、目玉が変な方向に偏ったりするなどの神経症状がたまに出ます。もう一つのドンペリドンという薬もほぼ同様と思われます。

 下痢についてはどうでしょうか。下痢を減らす薬はあります。古くから使われていて効果が認められているのは、腸の動きを抑えて下痢を減らすロペラミンという薬です。普段元気な大人であれば、仕事も休めないとか、試験の日だとかには使っても良いかも知れません。6人に1人程は便秘になります。その他の下痢止めの効果は不明です。

 ところで、嘔吐や下痢は、ウイルスの侵入から身体を守る働きの一つです。子どもが致死量のタバコを食べても、多くが嘔吐することで助かるのと似ています。逆に、先ほどの嘔吐止めを使うと、ウイルスの排泄を遅らせ下痢が長引くわけです。また、小さい子どもに下痢止めを使うと、腸が腐るなどの重大な副作用が起こるので、使わないのが世界的常識です。

 ノロの嘔吐はほぼ1日で止まりますので、それを待ちましょう。下痢には、乳酸菌などの「善玉菌」の製剤は下痢を減らす効果があり、アレルギー以外ほとんど副作用がありませんので、お勧めです。水分が欲しくなったら少しずつ飲み始めます。スポーツドリンクは糖分が10%弱もあり、下痢を悪化させるようです。薬局では子ども用の、糖分が少なくナトリウムなどの電解質が多い製品が売られていますのでそれがより良いです。

     (筆者は、小児科医)

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◆訂正とお詫び

 964号の当コラム「中性脂肪150以上か40以下」は、「中性脂肪150以上かHDL40以下」の誤りでした。訂正し、お詫びします。

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